「第2次トランプ政権」がもたらす「安全保障危機」
2025年1月20日、ドナルド・トランプ氏が第47代米大統領として返り咲いた。トランプ氏は6月14日に79歳となる。ちょうどその日はアメリカ陸軍の創立250周年記念日でもあるので、軍事パレードも予定されている。また、25年は我国が戦後80年の節目を迎える年でもあるため、トランプ氏に関する分析の他、日本の安全保障危機について考察をしたい。4月29日アメリカ首都・ワシントンD Cにて、トランプ氏は就任100日目を迎えた際の演説で、「アメリカは黄金時代を迎えようとしている」と強調した。また、就任後に実施した自身の取り組みの正当性を訴え、「100年で最も大きな変化をもたらした」と自賛した。トランプ氏は就任以前からS N S上で政策や公約に関する投稿を繰り返し、就任後は100を超える大統領令を発令。トランプ政権による様々な政策の影響は瞬く間に全米に広がった。また、関税政策で世界中を混乱の渦に巻き込み、税率等で朝令暮改を繰り返したことで、アメリカや世界の経済に悪影響を与えている。アメリカの著名なファシズム研究者がトランプ氏を「ファシスト」と断言し、「標的になるのは市民権を持たない人だけだと考えるのは甘い」と警鐘を鳴らしている。事実、トランプ氏のカナダに対する「アメリカの51番目の州になるべきだ」との発言は、カナダとの緊張を高め、アメリカ国内ではトランプ政権の継続に反対する声も挙がり始めている。そうした状況を前に、筆者が最も危惧する点を挙げるとすれば、日本に対する安全保障上の懸念だ。なぜなら、トランプ氏は「日米安全保障条約を破棄することもあり得る」とも発言し、日米の防衛関係について、日米同盟の片務性を「有事にアメリカは日本を守るが、日本はアメリカを守らない」と不満を表明しているからだ。いうまでもなく戦後の日米関係は、日米安保条約の〝核の傘〞の下、日本国憲法を制定から一度も改正することなく友好関係を維持してきたはずだ。25年3月、アメリカ外交問題評議会が発行する外交誌『フォーリン・アフェアーズ』において、ハーバード大学名誉教授で軍事戦略研究の専門家が、「アメリカをよりよく守るためには、米軍の展開を見直すべきである。具体的には、米軍を西半球で増強し、アジアおよびヨーロッパでは削減し、最前線への展開部隊を縮小すべきだ」と提言した。この軍事研究家について、上智大学教授で現代アメリカ政治・外交を専門とする前嶋和弘氏は、「著名な〝国防エスタブリッシュメント〞の一人」と評価している。こうしたアメリカにおける安全保障方針の転換が今後の日米両国の友好維持にどのような影響をもたらすのか一抹の不安がよぎる。トランプ氏が強調する「アメリカファースト」のために、自由貿易をやめ、世界中の米軍を減らし、アメリカが北米大陸に引きこもれば、日本は中国と西側世界がぶつかる最前線に単独で取り残されることになるだろう。トランプ氏は軍事、外交、経済、あらゆる部門で、アメリカの覇権に中国が挑戦していると認識し、それを阻止したいとの思いがあるようだが、米中貿易戦争の激化に株式・債券市場は動揺している。そして、米軍がアジアから撤退することにでもなれば、中国習近平政権にとっては、「台湾有事」を起こす、この上ない好機となるはずだ。『週刊現代』(講談社)の4月28日号の表紙には「台湾有事、いまそこにある危機」とあった。他紙・他誌でも同様の見出しが散見される。S N Sでも同様の状況にある。