本年は「TPP機運」を高める好機

本年は「TPP機運」を高める好機

2020年1月にEU(欧州連合)を正式に離脱したイギリスが、21年2月にTPP(環太平洋パートナーシップ)協定への加盟を表明した。イギリスとしては、深刻なコロナ禍の状況からの経済的回復の狙いや、経済成長を続けるアジア太平洋地域との結びつきを強めたいとの思いだ。TPPは、17年5月に交渉が開始され、18年1月に妥結(発効は同年12月)したが、その時点での参加国は11ヵ国(日本・メキシコ・ニュージーランド等)だった。それが12ヵ国となり、域内の関税を撤廃したり、投資の共通ルールを設けたりする協定の枠組みが拡大すれば、より大規模な多国間貿易交渉が可能となる。その結果、参加国のGDP(国内総生産)は世界全体の約16%に上昇すると分析されている。当初、TPPの交渉に参加していたアメリカは、トランプ前政権が17年に離脱し、バイデン現政権も復帰には消極的な姿勢を示している。元来、貿易のルールはWTO(世界貿易機関)が定めていたが、各国の自国優先的な主張等でうまく機能していなかった点も背景にある。21年は日本がTPP委員会の議長国で、今春をメドに交渉が始まる。TPPには“貿易超大国”の中国も関心を示しており、20年11月に習近平国家主席が「参加を前向きに検討したい」と表明。ただし、国際貿易におけるハイスタンダードでバランスのとれたルールと義務を守ることが前提となり、中国の参加に対しては懐疑的に見られている。当然ながら、かつての貿易大国の日本は、FTA(自由貿易協定)や、EPA(経済連携協定)を始めとする、他国との貿易拡大には積極的に取り組んできた。例えば、日本経済団体連合会では、すでに12年8月時点で「経済連携推進委員会(後の通商政策委員会)」を立ち上げ、筆者も同委員会の経済連携推進部会長を務め、経済界の推進活動を支援していた。例えば、15年2月にタイのバンコクで開催された「日タイ合同貿易経済委員会」に出席し、プラユット・チャンオチャ首相とも面会した。また、同年6月開催の「アジア太平洋広域経済セミナー(ジェトロ主催:開催地はメキシコの首都メキシコシティ)」には、筆者が経団連を代表して参画し、日本メキシコ経済連携協定(日墨EPA)発効10周年記念セミナーの閉会式の挨拶もした。16年7月には、内閣官房TPP等政府対策本部の大江博首席交渉官より、「TPP参加国の国内手続きの進捗状況や発効に向けた現状と課題について」の説明を受けたが、大手企業各社を代表する参加者は約140名にものぼった。TPPを離脱したアメリカについては、19年の国会で承認済みの日米2国間貿易協定でカバーしている。ただ、農業生産者の関心が高いコメに関しては保護されている一方、乳製品や牛肉等の輸入が迫られ、“不平等条約”と揶揄される一面も。TPPでは、経済発展に寄与する協定だけでなく、中国の安易な加入を防ぐために、アメリカの復帰や、イギリス参入の機会を逃さず、「自由な21世紀型貿易ルールを世界に広めていく」日本の役割は重大だ。※本欄は月刊誌「リベラルタイム」2021年4月号に「匠の視点(第12回)」としても掲載。