岸田内閣人事に見る「長期政権」の狙い

岸田内閣人事に見る「長期政権」の狙い

2021年11月10日第二次岸田(文雄)内閣が発足した。翌月12月6日の岸田首相の所信表明演説の中で、「遠きに行くには、必ず邇(ちか)きよりす。」という言葉を引用し、大きく物事を進めて行く際には順番が大切であると述べた。また、現在は感染状況は落ち着いているが、「屋根を修理するなら、日が照っているうちに限る」と米国第35代大統領、ジョン・F・ケネディの言葉を紹介しながら、コロナ予備費を含めて13兆円規模の財政資金を投入し、感染拡大に備えることとした。“反二階”を打ち出し、自民党総裁選を勝ち抜いて首相に就任した岸田氏自身の課題は、政権基盤の安定であろう。そこで、21年10月の衆議院総選挙とその後の組閣等にまつわる筆者の印象を述べてみたい。第1次発足から1カ月余りしか経過していないので、ほとんどの閣僚は再任となり、新任は“岸田色”へのこだわりを見せた1名に留まった。それは、自民党幹事長に就いた茂木敏充前外務相の後任に、林芳正元文部科学相を任命した点だ。参議院からの鞍替え当選を果たした林氏は、岸田派(宏池会)のナンバー2だ。父上は元通産省官僚で厚生、大蔵相等を歴任した林義郎氏。私のかつての上司(元旭化成会長、元日商会頭の山口信夫氏)が父上と懇意にしていたこともあったので、父上がお堀の周辺を散歩する際に私が雑談をしながら“秘書の如き”数回随行した経験もあった。ある会合(※本ホームページの私の履歴で使用した写真とは別)で私の隣に座った林氏に父上のお話しをしたが、全く反応を示されなかった印象だけが未だに私の脳裏にある。岸田氏と波長も合うようで、怜悧で、スキもなく、以前自民党総裁選に立候補した経験もあることから、首相後継も念頭に置いた人事の感があるが、少し気がかりなことは、入閣直前まで日中友好議員連盟会長で、親中派として認識されている点だ。防衛相の経験もあるので、現在の南シナ海の領有権や台湾等の諸問題に対しても、毅然とした対中外交を展開して頂きたい。次に、前任の外相だった茂木敏充自民党幹事長である。甘利明氏が衆院選の小選挙区で落選(比例区復活)したことで幹事長を辞任した際、茂木氏は後任となった。茂木氏は旧竹下派の会長に昇格し、茂木派としてにわかに自民党総裁への野望を燃やし始めたと見る人もいる。茂木氏の頭の切れのよさは政界では定評がある。ただ、一部では人望不足を指摘する声もあり、党内の支持を得られるかが課題だろう。他方、今回の10月総選挙では、二つの政党が「民主党」の略称を用いた等の混乱もあった。候補者男女均等法施行後初の衆議院選挙であったが、結果的に今回当選した女性議員は衆院全体の9.7%で、前回17年の10.1%を下回った。候補者に女性が占める割合が17.7%(1051人中186人)に留まったことは今後の課題だろう。そして、「比例復活」の問題も今後検討の余地がありそうだ。現行の小選挙区比例代表制は、重複立候補により、小選挙区で落ちても、比例区で当選できる制度だが、比例区定数176のうち比例復活当選は130。73%という驚異的な割合だった。小選挙区の得票では3番手にかかわらず、2番手を差し置いて、小選挙区当選者の3分の1の得票で当選する事例もあった。最後に“再々復活”が話題になる安倍晋三元首相に関してである。21年12月6日に、安倍派会長就任後初の政治資金パーティが東京都内のホテルで開催された。岸田自民党総裁、麻生太郎副総裁、茂木幹事長らも参加していたが、『読売新聞』の記事によると、自民党最大の95人を率いる安倍氏の存在感は凄かったようだ。所属議員数は衆院解散前95人まで回復している。実に自民党所属議員の4人に1人を占める最大派閥となるが、安倍氏の派内結束に向けた手腕が注目される。第5派閥の岸田派を率いる岸田氏は、かつての「大宏池会」構想も秘めている。“後ろ盾”の安倍氏に配慮しながらの政権運営だ。また、安倍派加入は果たせていないが、高市早苗自民党政調会長も、引き続き総裁を目指す意向を示している。以上のような課題もある岸田氏ではあるが、次期参議院選挙の結果次第で長期政権への足掛かりの有無が判明する。※本欄は月刊誌「リベラルタイム」2022年2月号に、一部削除して「匠の視点(第22回」としても掲載。