吉野彰旭化成名誉フェローの「ノーベル化学賞」受賞を喜ぶ

吉野彰旭化成名誉フェローの「ノーベル化学賞」受賞を喜ぶ

本年10月9日、スウェーデンでノーベル化学賞の発表があり、タイトルのような見出しが翌10日の新聞各紙を飾った。日本人であれば当然ではあるが、本年6月まで旭化成に籍をおいていた私としては、掛け値なしで嬉しかった。私に対し「昨夜の発表の瞬間は感動で涙が溢れ、鳥肌が立ちました…」と秘書室のある後輩も教えてくれた。さらには吉野さんの気さくで偉ぶらない人柄や人間性までが話題になった。私は総務・広報担当役員も担当していたこともあったので、毎年ノーベル賞発表の時期になると、メディア等への対応準備のため、他の社内関係者以上に気をもんだ時期が続いていた。吉野さんの功績や受賞理由等は既にマスコミ等で十二分に報道され、技術系の固い内容であるにも拘わらず、大筋では理解された方も多いと思う。実は、昨年“プレ・ノーベル賞”とも言われ、科学技術の分野で世界的な権威のある“Japan Prize”「日本国際賞」も受賞されているが、今回はまさに念願の“本命ノーベル賞“である。これらの授与は、充電して繰り返し使える蓄電池である「リチウムイオン電池(LIB)」に関する研究開発の功績が称えられたものであるが、現在のLIBの原型となる二次電池を世界で初めて考案したという点が大きい。携帯電話やノート型パソコン等のIT機器の世界的な普及に大きく貢献するとともに、今後、電気自動車等の新規市場への更なる広がりが期待されている。旭化成では、私は3年後輩(1975年入社)となるが、前述の広報的な仕事との関係などで直接お話しする機会もたびたびあったし、私の自宅書斎には今や入手困難と思われる2004年9月発刊の吉野さんの著作本「リチウムイオン電池物語」もちゃんと収まっていた。今、改めて手にすると、本の帯には「研究の楽しさ、開発のノウハウ、現代版偉人伝」「新技術立国日本への期待を込めた一冊」などのキャッチコピーが書かれ、そして著者紹介欄には既に数々の受賞歴が並んでいた。例えば、日本化学会化学技術賞、文部科学大臣発明賞、平成15年度文部科学大臣賞、平成16年度紫綬褒章などである。2008年の国連総会で、1911年のキュリー夫人のノーベル化学賞受賞から100年目に当たる2011年を「世界化学年」とすることが決定していたが、旭化成グループも世界の化学メーカーの一員として、この活動に参画してきた。そして当時の2011年にパリのユネスコ本部で開催されたオープニングセレモニーの「世界化学年開幕宣言」に、キュリー夫人のお孫さん他、世界中から多くの研究者が参加する中、この時点で既に日本企業を代表して吉野旭化成フェローが参加していた。尚、これまでの受賞者の中で、企業所属の研究者では、2002年の田中耕一氏以来であり、「企業研究が評価」された事例となった。10日付の新聞各紙の朝・夕刊の一面などに掲載された吉野さんの数々の喜びの写真は、私たちにも心底からの笑顔を与えてくれた。“花束を抱えた笑顔の吉野さん”“マイクを片手に笑顔で記者団に話かける吉野さん”、この度は本当に良かったですね。心からお祝いを申し上げます。