「全国人民大会」に見る中国「台湾統一」の野心

「全国人民大会」に見る中国「台湾統一」の野心

2022年224日、ウクライナに軍事侵攻したロシアのプーチン大統領の無謀さは、過去の歴史的“怨念”に起因している。当初はロシア国内では理解を得られており、国民の約半数から支持されてもいた。しかし、人道危機の様相も帯び、反政権派だけでなく、一部の支持者達も距離を取りつつあるようだ。プーチン氏は約22年間にわたって実権を握り続けている。氏は侵攻の正当性を主張し続けてはいるが、自身の求心力低下への焦りから“誤断”した。国際社会は「力による現状変更は容認できない」と非難。日本も含めアメリカやEU(欧州連合)等は国際金融や貿易からロシアを排除する経済制裁に踏み切った。そのためプーチン氏を支えてきた新興財閥(オリガルヒ)も離れつつある。筆者が関心を持って見ているのは、ロシア友好国の中国、特に習近平・国家主席の動向だ。習氏は24日の「北京オリンピック」の開幕式では、プーチン氏を国賓として迎え、平和の祭典を露骨に政治利用した。また、開会式直前に19年以来約2年ぶりの直接会談をし、会談内容を踏まえ、225日の国連安全保障理事会のロシア非難決議案では常任理事国の中国は棄権した。共同声明でも、NATO(北大西洋条約機構)のこれ以上の拡大への反対を表明し、「友情に限界なし」と狡猾な二人の結束を誇示した。ロシアが支持した中国政府が掲げるシナリオは、台湾を分離した省とみなす「一つの中国」政策で、いずれは再び中国大陸と統一されるとするものだった。これまで中国は、経済圏構想「一帯一路」でウクライナとも深い関係にあり、例えば、中国初の航空母艦「遼寧」は1998年にウクライナから購入したもので、軍事技術の提供も受けている。その中国が、従来の立場を捨てロシア支持に踏み込んだことになる。この流れに乗った習近平政権の台湾侵攻への連鎖が憂慮される。諜報戦によって、プーチン氏の侵攻計画や中国の台湾海峡攻略への詳細も得ていたバイデン米大統領だが、軍事対応の意図はないことを公表している。3月2日の「一般教書演説」ではプーチン氏を名指し批判はしたものの、台湾問題には触れなかった。「台湾統一」に執心する中国は安堵したはずだ。プーチン氏の訪中は政治、経済面で権威主義・強権政治国家の共闘体制の構築を示すことにはなった。一方、中国の軍事的圧力を受ける台湾はすでに独自の憲法を持ち、民主的に選出された指導者を持つ”独立国家”の面がある。バイデン政権は31日に米軍の元制服組トップらを台湾に派遣した。また、3月2日にはマイク・ポンぺオ前国務長官も訪台し、3月3日に蔡英文総統と面会した。これらはアメリカの対応を注視しつつ台湾への出方を練っていた中国に、強烈なインパクトを与えた。ポンぺオ氏は、台湾での演説の中で、李登輝前台湾総統の言葉を引用し、「アメリカ政府は台湾を主権独立国家として外交承認すべきで、その国の名前は中華民国台湾である」等と発言している。ウクライナ危機は、習氏に対しても、「万一侵略をすれば、いかに大きな代償を払うことになるか」「戦争を始めることはできても、終わらせることは容易ではない」等を認識させ、台湾有事への警告になった。しかし『新華社通信』によると、3月に開催された「全国人民代表大会」中の「軍と武装警察の分科会」にて、習氏が中国軍を海外に派遣して活動させる根拠法の整備(全軍の戦争準備)を指示したとのことだ。やはり台湾有事への備えは不可欠のようだ。※本欄は月刊誌「リベラルタイム」2022年5月号「匠の視点(第25回)」としても掲載。