深刻化する北朝鮮「核の脅威」

2022年6月5日、北朝鮮が合計8発の弾道ミサイルを日本の排他的経済水域(EEZ)に向け発射した。飛翔体はEEZの外側に落下したものの、今回のミサイル発射は、これまで以上に北朝鮮の動きを注視する必要性を感じさせた。岸信夫防衛相は10日に開かれた閣議後に「変則軌道で飛翔可能な短距離弾道ミサイルと同型の可能性がある」として、その後の記者会見では「極めて低い高度で短時間の飛翔をしたもの」と発表した。筆者が懸念するのは、これまでのミサイルとの違いだ。つまり、「極めて低い高度の短時間飛行」のため、レーダーで捉えにくく、現時点では抑止が困難である可能性があるからだ。陸上自衛官出身で「ヒゲの隊長」の愛称で知られる佐藤正久(参議院議員/元外務副大臣)は、ミサイル発射後の、6月7日に放送された国際報道番組の中で、「守りづらく脅威度が高まった」と“危険信号”を漂わせた。ミサイル発射について、北朝鮮外務当局は「自衛的国防力を強化する措置は、世界最大の核保有国であるアメリカの脅威から、国権と国益を守るための正当で合法的な自衛権の行使だ(72日付の「朝鮮中央通信」より)」と主張している。また、4月に平壌で開催された中央報告大会では、朝鮮労働党トップ就任から10年目になる金正恩(キム・ジョンウン)総書記が欠席する中、氏の業績を「国家核戦力の大業を実現させた」と讃えていた。そして、6月に開催された朝鮮労働党の中央委員会総会でも、金総書記本人が「国家権力を守るためには一歩も譲歩しない。国防力強化の目標達成を前倒しする必要がある」と表明している。朝鮮半島情勢を専門とするNHKの池畑修平氏(NHK「持論・公論」解説委員)によると、ミサイル発射は金正日(キム・ジョンイル)体制時には16発(核実験回数は2回)だったのが、金正恩(キム・ジョンウン)氏の代になってからは、221月時点で94発(核実験回数は4回)であり、3月時点で通算100発余りとなる。世界の軍事力ランキング(「NEWS24-WEB」22年版)では、日本は5位で韓国は8位であるが、北朝鮮は30位にすぎず、持っている武器、戦車、戦闘機等は古くて性能も低く、一発逆転の切り札として核兵器を飛ばすためのミサイル開発に突き進んだようだ。北朝鮮は21年に「国防5か年計画」を発表し、すでにミサイル開発推進等での軍事力強化を打ち出していた。これまでも北朝鮮は、「ノドン」「SLBM(潜水艦発射弾道ミサイル)」新型ICBM(大陸間弾道ミサイル)火星17型」、大型の「テポドン2号」派生型と射程距離ごとにミサイル開発を推進している。また、現在はアメリカとの制裁緩和交渉が止まっており、この際にミサイル・核の開発力を強化し、アメリカの脅威への対抗力をつけ、自国の軍備増強をアッピールしたいとの思いもあるのだろう。韓国が22年5月から革新派の文在寅(ムン・ジェイン)氏から保守派の尹錫悦(ユン・ソンニョル)氏の政権となったことの影響もある。その尹氏は大統領選挙での公約として北朝鮮に対する「先制打撃論」を掲げ、韓国へのミサイル攻撃の兆候をつかんだら発射の前に叩くという考え方を表明していた。これらの背景から、北朝鮮は経済力で韓国に大きく差をつけられたことで、軍事力を強めることが「金正恩総書記体制」を守る選択肢と考えているようだ。※本欄は月刊誌「リベラルタイム」2022年9月号「匠の視点第29回」としても掲載。