「対日融和政策」を模索する「韓国・尹錫悦(ユン・ソンニョル)政権」

「対日融和政策」を模索する「韓国・尹錫悦(ユン・ソンニョル)政権」

202211月、カンボジアの首都プノンペンで 、日韓両国首脳が約3年ぶりに会談した。岸田文雄首相と尹錫悦(ユン・ソンニョル)韓国大統領は、いわゆる徴用工・挺身隊訴訟問題について、早期解決を図る方針で一致した。中国を念頭に、「自由で開かれたインド太平洋」の実現に向けた連携も確認した。文在寅(ムン・ジェイン)前大統領は、北朝鮮や中国に擦り寄った左翼的政権で、歴史的にみても日韓関係を完全に冷え切らせた最悪の5年間だった。当時の安倍晋三元首相も、韓国とは距離をおいていたし、多くの日本人も「韓国は嫌い」だった。225月に尹政権が誕生してからは、にわかに対日政策は変わりつつある。革新派大統領の文氏は北朝鮮に秋波を送る「親北路線」を取り、慰安婦裁判・徴用工裁判で恣意的な判決を最高裁に出させたりする等、日韓関係を悪化させた。それらの“負の遺産”を引きずりながらではあるが、尹大統領の任期中に両国関係は改善に向かいそうだ。冒頭の日韓首脳会談に先立ち、岸田首相はバイデン米大統領と尹大統領との3カ国首脳会談も行い、北朝鮮のミサイル発射を非難し、「日米韓の連携をさらに強化し毅然と対応したい」と発言。3首脳は北朝鮮の完全な非核化に向けて厳しい対応を取る方針でも一致した。尹大統領の就任前から外交アドバイザーをしていた尹徳敏(ユン・ドンミン)・駐日韓国大使は、同年11月の産経新聞社の取材の中で、「巨大な中国の登場が、日韓共通の安保課題」と発言し、日韓の価値観は共通しているとの認識を示した。同大使は大統領の人物評として、韓国には“不幸な歴史”もあって、厳しい対日観をもつ政治家が多い中、尹大統領は「日韓関係の重要性を語ってきた親日家」であると述べた。加えて、「日韓関係を一番いい時代に回復させなければならない」と、尹大統領が関係改善を前面に出した発言を続けていたことも紹介している。そして、尹大統領の外交観・対日観としては、日韓関係がよかった時代として、小渕恵三首相と金大中(キム・デジュン)大統領による「日韓パートナーシップ宣言(1998年)」を例に出すことが多いと挙げた。実は、尹大使は研究者出身で日本への留学経験もあり、慶応義塾大学法学部の神谷不二教授(偶然にも筆者が学生時代に在籍したゼミ)に師事し、博士号も取得している。大使が発表した博士論文は、朝鮮半島有事の研究で、朝鮮戦争の時、韓国が生き残ることができたのは沖縄の基地から米軍が出動して釜山の橋頭堡を確保し、共産化を免れたという日米韓のメカニズムを骨子としたものだ。韓国国内での尹大統領の評判は決してよいとはいえず、支持率も「韓国ギャラップ」の世論調査で就任時52%だった支持率が、8月時点では25%まで低下している。対立派がメディア報道やネットを活用して、「尹大統領夫妻は国際舞台で何かに付けて韓国のメンツに傷をつける」等と罵詈雑言を浴びせていることも原因の一つだろう。前任の文氏は、大統領経験者の多くが退任後に逮捕される等、悲惨な末路となっていることを警戒して、政権末期の退任直前に“自己保身目的”の「検察庁法改正」を行った。これは検察の捜査権をはく奪するものであり、韓国法曹界や学会から憲法違反を提起され、いよいよ前検事総長であった尹大統領の反撃(文氏逮捕)が始まる気配だ。緊迫する国際情勢の課題を考え、それに対応すべく日米韓の絆を優先するならば、尹大統領が日韓の歴史的わだかまりに終止符を打ち、“未来志向”の連携ができるかが、政権評価の分岐点となろう。※尚、本欄は月刊誌「リベラルタイム」2023年2月号「匠の視点」第34回としても掲載。