「延命」もあり得る岸田文雄氏の「深海魚政権」

「延命」もあり得る岸田文雄氏の「深海魚政権」

2023年11月「しんぶん赤旗」日曜版のスクープが発端で、神戸学院大学・上脇博之教授の刑事告発を受け、東京地検特捜部の捜査が、自民党の派閥・政治資金問題を直撃した。“裏金”“キックバック(還流)”といった言葉が話題となり、岸田文雄政権の内政は厳しい局面が続いた。内閣支持率に関する報道各社の世論調査結果も相変わらず低迷している。派閥政治の弊害が表面化し、24年1月18日、岸田首相は自分が会長を務めていた第4派閥「岸田派(宏池会)」からの離脱を唐突に表明し、派閥を解散させた。この予期せぬ行動は、裏金問題で閣僚辞任や逮捕議員も出し、震源地となった最大派閥の安倍派(清和政策研究会)、そして二階派(志帥会)の解消に繋がった。第二派閥の麻生派(志公会)、第三派閥の茂木派(平成研究会)も派閥離脱者を出す等、その流れの中で揺れている。岸田首相は一連の組織的裏金づくりの実態解明を開始し、党内に政治刷新本部を設けた。1月29日には国会の衆参両院の予算委員会で集中審議も行い、党による関係議員の聴取も始めた。焦点は裏金の温床と見られている政党から政治家個人に渡され、使途を明らかにしないで済む「政策活動費」のはずだ。2月7日の衆院予算委員会では、二階派会長の二階俊博氏が幹事長在任中の約5年間で50億円程度の政策活動費を受け取ったとされ、その使い道が質される状況になった。筆者と交流がある某メディア政治記者から、本件に関するメッセージが届いた。記者は本件について、「菅義偉前首相が“小石河(小泉・石破・河野)連合”を担いで政権への影響力維持を狙う動きがみられ、それを察知した岸田氏の“先手必勝”の対抗的な政治行動」と分析。さらに、記者は「支持率低迷が続く岸田政権を見限って、ポスト岸田を模索(=岸田降し)していた麻生太郎副総裁、茂木敏充幹事長の動きへの対抗でもあろう」と推察している。このような憶測が持ち上がりはしたが、今秋9月予定の党総裁選挙で再選狙いの岸田氏による“自作自演”のようでもある。岸田氏には政治資金問題に対する周囲からの圧力を受け止める強靭さも感じる。岸田氏は自派閥からの離脱を表明した前日の1月17日に、首相官邸での政府与党連絡会議で、24年の春季労使交渉(春闘)に向け、「今夏に経済界や労働団体の代表者と意見交換する政労使会議を開催する」としている。会議では「官民が連携し賃金を上げ、可処分所得が増える状況をつくる」と強調した。4月には国賓待遇で訪米し、バイデン米大統領との首脳会談の予定もあり、得意の外交での起死回生を期待する人々もいる。年末から年始にかけ、筆者も出席した会合で直接聴いた講話で、「政権延命もあり得る」と分析するメディア活躍の著名人も複数おられた。また、作家で元外務省主任分析官の佐藤優氏は、ネットやラジオ番組等で、とりわけ外交面では大きな成果を上げてきたと高評価している。同氏は岸田氏を中国におもねることなく、主張すべきことはきちんと主張して、「外交は実に狡猾で巧み」だと評価。これまでの岸田氏を“深海魚政権”という表現で語っている。衆目が一致する「ポスト岸田」候補不在の現状だ。※本欄は月刊誌「リベラルタイム」2024年4月号「匠の視点」第48回としても掲載。