「地政学」視点で読み解く国際情勢

「地政学」視点で読み解く国際情勢

20229月に開かれた一般社団法人「内外メディア研究会」の例会で、モスクワ大学大学院修了の経歴を持つ袴田茂樹氏(青山学院大学名誉教授)によるウクライナ戦争の背景やプーチン露大統領の人物像等に関する講演を聴いた。袴田氏はロシア関連の論評をする際、ネット情報・新聞情報等を参考にする場合は、ロシア語の原文も確認した上で行うように努めているとのこと。ニュース番組でロシア専門家と紹介される人物の中には誤解に基づくコメントも多く、“報道リスク”を感じるからとの理由だった。本題に入るが、まずは国際情勢の現状である。プーチン大統領の誕生日だった22108日の翌日に、クリミア半島とロシア本土をつなぐ「クリミア大橋」で爆発が発生した。プーチン大統領のウクライナ侵攻の失政を感じさせる事件だ。一方、中国の習近平国家主席は1016日開始の中国共産党大会で異例の3期目続投が決定した。毛沢東と並ぶ「人民の領袖」という存在になり、もはやプーチン氏との連携は不要で距離を取り始めている。日本海では、アメリカが原子力空母も投入した米韓共同の北朝鮮の弾道ミサイル迎撃訓練や、日米韓の合同演習も行った。無謀なミサイル発射を続ける金正恩北朝鮮総書記への牽制だ。これら不透明な世界情勢を理解するには、ブームになりつつある「地政学」がヒントになろう。軍事や外交といった国同士の国家戦略を地理的な条件に着目すると、新たな景色が浮かぶ。ウクライナ戦争は、世界地図を眺めると巨大ロシアの大統領が隣の小国ウクライナを虐めているように見え、プーチン氏が一方的に侵攻している図となる。NATO(北大西洋条約機構)の加盟国も含めた視点で見直すと、ロシアの西側のNATO諸国と東側のアメリカに挟まれている図が投影される。ソ連時代に作られた、ソ連に対抗するための軍事同盟であるNATOが拡大することはロシアにしてみれば“国家の存亡”にかかわる問題だ。ソ連が解体され、ロシアとなった今もNATOの勢力は増大しており、ロシアからすると非常に不愉快のはずだ。ウクライナがNATOに加盟すれば、“緩衝剤”としての国も消滅する。地政学の概念は、国境線が陸続きで他国と接している「大陸国家」と、海に接している「海洋国家」の二つが代表格。中国・ロシア等の大陸国家は、他国から侵略されやすいし、また他国を侵略しやすい。一方の日本・英国等の海洋国家だが、日本は第二次世界大戦時には大陸国家を目指してアジア諸国に勢力を拡大しようとしたが失敗した。中国の別名“赤い侵略”とも称される「一帯一路」という経済圏構想は海洋国家も手に入れようとしている構図だ。「地政学」は19世紀末~20世紀初頭にかけて誕生したとされ、様々な学者によって歴史の中で積み上げられてきた。周囲が海の日本は外敵が侵略しにくい地形と見られた時代もあった。現在は中国・ロシア・北朝鮮という核とミサイルを持った“冷酷な力の信望者”が治める独裁国家に囲まれた国になっている。日本の国家防衛は日米安保条約を結ぶアメリカ依存だが、「中国統一」を国是とする中国の台湾侵攻への動向が懸念される。米中新冷戦の今日、日本も緊張が高まる一方だが、 日本有事の反撃能力(敵基地攻撃能力)の保有への着手が現政権の重要課題であることを強調しておきたい。※尚、本欄は月刊誌「リベラルタイム」2022年12月号「匠の視点」第32回としても掲載。