議論不足の「温暖化対策」

菅義偉首相による政策議論の結果、国際公約となった気候変動対策がある。2021年4月、菅氏は首相官邸で「2030年度までにCO2を13年度比で46%削減」「自らトップレベルの野心的な目標を掲げ、世界の議論をリードしていきたい」と各官僚に向け発破をかけた。また、菅氏は国会所信表明演説で、「2050年までにCO2をゼロにする脱炭素社会実現を目指す」(2050年カーボンニュートラル宣言)とも発信している。国際連合のIPCC(気候変動に関する政府間パネル)第5次報告書では、「温暖化は可能性がきわめて高く(95%)疑う余地がない」とされている。しかし、環境問題に詳しい渡辺正氏(東京理科大学教授)は、「実際のところ『地球温暖化』の科学的視点で証明されてはいない」として、次のような問題点を指摘する。「温暖化」が騒がれた過去30年(1990年~)、地球の昇温は最大で0.3°Cで、体感さえ容易でなく、気象や気候を変えるパワーはない。また、「0.3°C上昇」の主因が人為起源のCO2なのか断定はできず、もし主因が自然変動なら対策に意味はない。2006年から「温暖化対策」資金は1年あたり5兆円(1150億円)が投じられ、30年には総額は100兆円を超すことになる等の諸点だ。1997年に採択された京都議定書では、「気候変動枠組条約」に基づき具体的なルールを決め、先進国には温暖化対策が義務付けられた。しかし、温暖化が騒がれる以前は地球は寒冷化するといわれていた。例えば、小説家の小松左京氏による『地球が冷える異常気象』という著書がある。また30年ほど前は「酸性雨で木が枯れる」と騒がれる時期もあったが、いまでは話題にも上がらない。上述のような環境対策を、菅氏のようなコロナ禍の中でも東京オリンピックを断行した信念の人が発した点で危惧される。菅氏の温暖化対策は口先だけではないだろう。しかし、30年までの9年間でどうにかなるものでもない。菅氏の宣言は注目されたが、内容の希薄さに国内外の通信社やメディアからも絵に描いた餅等と批評され、官邸内での議論不足が露呈した。再生可能エネルギーの弱点を補うための安定的なバックアップ電源や蓄電池確保には膨大なコストがかかるし、太陽光・風力発電の適地は枯渇している。そして、CO2を家庭部門で66%も削減するとなれば、目標達成には国民の生活が犠牲となる。とりわけ心配なのは環境問題で、EU(欧州連合)等から日本の輸出産業が標的にされるリスクだ。21年7月21日に公表された政府のエネルギー基本計画だが、発表直前の714日に、EUの欧州委員会は、包括的気候変動対策案を公表しており、地球温暖化対策に熱心でない国や、企業への包囲網が狭まりつつあった。EUの対策案には、環境規制の緩い国からの輸入品に対する「国境炭素税」の導入や、35年発効のハイブリッド車を含むガソリン内燃機関車の新車販売の禁止条項が含まれる。これらは日本の素材産業の打撃となり、35年以降もハイブリッド車を主軸に据えたい日本車メーカーには制約となる。アメリカや中国も追随しかねず、貿易立国の我国が外貨の獲得に窮し、経済危機に陥るリスクさえある。菅氏の政策はこうした背景があってのものだったが、実現性は乏しく、マスメディア各社も疑問を投げかけているのが現状のようだ。※本欄は月刊誌「リベラルタイム」2021年10月号に「匠の視点(第18回)」としても掲載。