菅義偉新政権の「安保課題」を考える

菅義偉新政権の「安保課題」を考える

我国を取り巻く安全保障環境は、北朝鮮による核爆弾・ミサイル開発や中国の海洋進出、厳しさを増すばかりである。これまでは2012年末から8近くにわたり、安倍晋三前首相がその安全保障の舵取りをしてきたが、これからは20年9月に就任した菅義偉首相がその役割を担うことになる。「安倍政権を継承する」と明言してのスタートだから、当面はこれまでの「自由で開かれたインド太平洋」という外交・安全保障政策も継続するのであろう。実は、筆者は第2次安倍政権発足直後の13当時、外務省から任命され、「外交・安全保障調査研究事業費補助金審査・評価委員会」委員長という役職に就いて、このテーマで議論していた時期があった。さらに遡れば、学生時代は神谷不二慶應義塾大学教授のゼミ(1先輩には、参議院外交防衛委員長を務めた武見敬三さんも在籍)で、日米関係や安全保障についても議論してきた。そこで、「国民の安全と国家の生存のために、他国の侵略から国土を守る」最重要政策に、どのように取り組めばよいのかを考えてみたい。まずは日米同盟を基軸に、日米安保条約を締結しているアメリカの軍事力で守って貰うことが前提となる。他国が日本に攻撃を行った場合、アメリカも敵に回すことになるため、他国に対する抑止力となるからだ。戦後の日本は、この条約のおかげで防衛政策より経済の復興に専念することができた。一般にはいわれないが、防衛庁が想定している“仮想敵国”は中国・ロシア・北朝鮮であり、現下で対応を急ぐべきは中国の脅威であろう。外交的には“日中友好”の関係が成立しているが、中国は海洋覇権を強化し、我国の尖閣諸島の領有権まで主張している。最近、海上保安庁が「尖閣諸島周辺の接続水域で毎月100程度、領海で毎月10程度の中国公船が確認されている」と発表しており、東シナ海だけでなく、南シナ海でも“九段線”と称する境界を引き、南沙諸島の領有権を主張し、支配を進めている。軍事専門家は、「中国は将来的には台湾の支配を見越し、台湾を軸とした東シナ海と南シナ海の海洋覇権を目論んでいる」と分析している。米国防総省も9月に発表した「中国の軍事力に関する年次報告書2020年版」の中で、中国の核弾頭数は10年で2倍になり、少なくとも2百発を保有。海軍力についても、米軍艦艇の290隻に対し、中国は350隻保有としており、艦艇数の単純比較だけでは見えないものの、アジア地域に限定すればその差は明らかだ。日米合同の海軍力でも軍配は中国側に上がるとしている。そうした状況下で南シナ海における中国の領有権主張を巡って、米中間の緊張が高まっており、アメリカの対中政策が急速に硬化。20年7月にはポンペオ米国務長官が、南シナ海における中国の海洋権益主張は違法だと断じた。中国の海洋覇権の追及は、東アジアの問題だけではなく、米中対立という世界的な対立図式の様相も呈している現状にあって、日本独自の“軍事力”の在り方を決定するのも政権トップの任務だ。※本論は月刊誌「リベラルタイム」2020年12月号に「匠の視点(第8回)」としても掲載。