政権安定を重視した「第2次岸田改造内閣」

2022年7月8日に凶弾に倒れ、帰らぬ人となった安倍晋三元首相に、岸田文雄首相は最高位の「大勲位」の栄典を授け、9月27日に「日本武道館」で国葬を行うことを7月14日に発表した。国葬には左翼系関係者はともかく、党内にも慎重論を唱える者もおり、岸田氏も迷いがあったようだ。だが、自民党支持の岩盤保守層だけでなく、7年8カ月(第2次政権だけで)という憲政史上最長の政権を築いたカリスマの非業の訃報で、多くの国民も支持するとの思いもあった。自民党が圧勝した参院選の余韻が漂う7月11日、自民党本部で開かれた臨時役員会で国葬を求める声が相次ぎ、麻生太郎副総理は翌日に岸田氏の携帯電話を鳴らし決断を促した。また、公明党の山口那津男代表にも了承を得た。多くの保守層が離れ、政権基盤が揺らぎかねないとの認識もあり、「安倍氏を国家として顕彰する」ことが党内派閥対立を未然に防げるとの提案もあった。また、犯人・山上某の供述を機に、合同結婚式・霊感商法等で話題に上った韓国発祥のカルト宗教団体(旧統一教会)の存在にも注目が集まり、多くの自民党議員が関係団体のイベントに関わり、選挙協力を受けていたことが報じられた。国葬実施の理由として、「国葬になれば弔問外交ができる」と首相が意欲的に語ったという情報もある。なぜなら、日米欧諸国の国際秩序の形成にも関わり、日本の国際的な地位も向上させた安倍氏の訃報は世界中を駆け巡ったからだ。安倍氏は第2次政権発足以降、80カ国・地域を訪問し、各国首相と信頼関係を築いたので、国葬には各国要人の集結が予想される。「葬儀委員長として“つつがなく”終えることができれば、岸田氏の名前は世界により知れわたることになる」(政府関係者)。また、注目すべきは岸田氏が、国葬予定日より1カ月以上早い8月10日に、周囲も想定していなかった突然(政治ジャーナリスト・田崎史郎氏の弁)の内閣改造・党役員人事に踏み切ったことだ。“安倍ロス”の状況下、結果として岸田氏はフリーハンドに近い形で人事を断行した。第2次岸田改造内閣は政権安定を重視した「非主流派」起用で結束をアピールしたが、各派閥にポストを割り振る「派閥均衡型」とも見える。それも岸田氏の熟慮の結果であろう。松野博一官房長官や麻生副総理、茂木敏充自民党幹事長を続投させ、政権の骨格は維持した。安倍氏の逝去は台湾”国民”や蔡英文台湾総統も日本国民同様悲しみを表明した。深刻化している“台湾有事”の深刻さを、兄同様に理解していた安倍氏の実弟・岸信夫氏が健康不安で防衛相を離れたことは残念だが、喫緊課題の“対中国問題”を考えればやむなしであろう。台湾絡みでは、訪台したナンシー・ペロシ米下院議長が8月3日に蔡総統と会談。「アメリカは揺るぎない決意で台湾と世界の民主主義を守る」と語り、各国指導者に訪台を促した。中国は、以前から準備していた「台湾侵攻」演習を、ペロシ氏訪台への反発を理由に大規模に実施した。米中対立の状況にあって、8月4日に中国は弾道ミサイル5発を日本の排他的経済水域(EEZ)に落下させた。日本有事も懸念すべき事態だ。中国に対して親中派と目されてきた林芳正外相は予想通り再任した。海外からも評価された「安倍外交」を、改造内閣は引き継ぐことが出来るのかが不安材料だ。※本欄は月刊誌「リベラルタイム」2022年10月号「匠の視点(第30回)」としても掲載。