忍び寄る米中危機と日本の安全保障

日本を取り巻く昨今の安全保障環境は厳しさを増している。新冷戦ともいわれるアメリカと中国の対立激化、北朝鮮の核ミサイル問題、尖閣諸島周辺で活発化する中国公船の動き等があるからだ。とりわけ軍事力の近代化・強化をしてきた中国の動きが不気味である。2020年には、尖閣諸島の接続水域にほぼ毎日(年間で333日)、中国船が現れ、21年5月5日時点では81日連続で接近していることも確認されている。“近い将来”の「米中戦争」がにわかに現実味を帯びつつあり、両国がふとしたきっかけで交戦状態に入れば、日本が巻き込まれるのは必至だ。そこで、加熱する米中の覇権争いから勃発する有事と、日本の防衛に関する考察をしてみた。21年3月、東京で、日米安全保障協議委員会(日米「2+2」)が開催され、日本側は茂木(敏充)外務相および岸(信夫)防衛相、そしてアメリカからはアントニー・ブリンケン国務長官、ロイド・オースティン国防長官が出席した。委員会では対中牽制の意図からではあるが、中国を名指しして「深刻な懸念」と表明した。同月、言論ÑPO(代表/工藤泰志)が、安全保障の専門家(香田洋二・元自衛艦隊司令官/元海将他2名)と行った最近の中国の動向分析結果を公表し、その中で、21年2月に施行された中国「海警法」が中国海警局の武器使用を認めたことを受け、日本の海上保安庁や自衛隊もその対処を強化する必要があるとした。そして、中国の動きが具体的に顕在化してくる地域は「台湾」との見方で一致した。注目点として挙げたいのは、中国が主張している自らの管轄水域であれば武器の使用も可能であるとし、尖閣諸島や南沙諸島に中国当局の承認なしに“何らか”が設置された場合は強制的に排除することも、さらに有事になれば海警局が中央軍事委員会の指揮下に入ることを明確化した点である。前述の香田氏は、海警は法執行機関であり、法律を執行することが任務であることから今後、何が起こってもおかしくない、と警鐘を鳴らしている。21年5月には、日米制服組のトップ会談(自衛隊の山崎幸二・統合幕僚長と米軍制服組トップ)が行われ、東シナ海等で強引な海洋進出を繰り返す中国を念頭に、「一方的な現状変更に断固反対」と表明した。軍事的に台頭する中国が「核心的利益」と位置付けている台湾との間の緊張を高めている。当該領域への他国の“干渉”には敏感に反応し、連日のように航空機を台湾の防空識別圏に侵入させている。だから、米中衝突の舞台は台湾となる可能性が高いとされ、米インド太平洋軍のフィリップ・デービッドソン司令官は3月の議会公聴会で、「中国が向こう6年間で台湾に武力侵攻する可能性がある」と警告した。中国は海洋アジア支配のために台湾を必要としている。台湾海峡が中国の領海に入ることがあれば、日本の輸送船の海上ルート(石油の約80%、物品の輸出入)が制限されるだけではない。恐らく、ただちに軍事的な拠点を築くため、日米関係をも分断されよう。まさに国家存続にも影響する問題である。戦後生まれの平和しか知らない国民が7割を超える日本では、人々の最大の関心事はコロナ禍の収束であり、自国の安全保障に関心を示さない慣行は、自国の領土も守れないことになる。そして、やはり課題には憲法9条問題が残ることになる。※本欄は月刊誌「リベラルタイム」2021年7月号に「匠の視点(第15回)」としても掲載。