保守政党「国民の力」敗北で日韓関係に暗雲
2022年に発足した韓国の尹錫悦(ユン・ソンニョル)第20代大統領は、5年ぶりの保守系政権であり、戦後最悪と言われるまで冷え込んだ日韓関係の改善に向け、意欲的に取り組んでいる。ユン氏は大統領選挙中から、日韓関係改善に前向きなメッセージを繰り返し、当選後直ぐに具体的な行動を見せ、23年11月には3年ぶりに日韓首脳会談も行った。険悪な関係となってきた要因の一つに島根県の竹島を巡る問題がある。日韓双方は「自国の固有の領土」と主張しあい、その周辺海域ではこれまで韓国軍は防衛訓練を年2回行い、島に上陸もしてきた。ユン政権の発足後の訓練は4回目となるが、今のところ島への上陸はしていない(韓国「連合ニュース」より)。次に太平洋戦争中の「徴用工」をめぐる問題だ。当時の日本企業数社の軍需工場で「女子勤労てい身隊」として過酷に働かせていたとして、日本企業に関係遺族等が損害賠償を支払うよう求め、結局23年12月に韓国の最高裁判所も認める判決となった。この問題は1965年の日韓請求権協定によって解決済みのはず。24年3月、韓国外務省の報道官は日本企業に代わって政府傘下の財団が日本企業に代わって支払う方針を表明。このように、ユン大統領の前任の革新系の文在寅(ムン・ジェイン)第19代大統領による数々の反日政策による戦後最悪の日韓関係の5年間とは異なり、明らかに両国の国民感情も変化した。互いに公然と“大嫌い”と言っていた両国民も、次第に好感的な言葉を発するようになっている。双方に、何度も期待を裏切られてきたという疑念の声と、「今度こそ」と期待の声が交錯している現状とみている。過去を振り返れば、日韓関係が悪化するに至った原因の一つとして挙げられるのは、保守系の第18代朴槿恵(パク・クネ)大統領政権時の2015年に結ばれた日韓合意を、ムン前政権が履行しなかった点もある。例えば、慰安婦問題は「最終的かつ不可逆的に」解決されたことを確認し、日本政府が元慰安婦を支援する財団を設立することを条件に10億円を拠出したが、18年11月に財団の解散を一方的に発表した。色々な経過を辿りながら、現ユン政権は、冒頭で触れた岸田文雄首相との日韓首脳会談を実現させた。大統領就任に先立つ4月から、韓国国会の副議長らによる代表団を日本に派遣し、ユン新大統領から岸田首相宛の親書を手渡し、岸田首相がそれに応えたことによる。実は、岸田氏は安倍晋三政権下の2015年、外務大臣として前述の日韓合意を結んだ当事者だったことも思い出される。 ここで筆者の韓国との関係・思いに触れておきたい。筆者が代表を務める匠総合研究所のホームページにも掲載しているが、これまで幾度となく訪韓した経験がある。古くは2002年11月に北朝鮮・韓国の軍事境界線の板門店(パンムンジョム)を視察、05年・06年と韓国サムスンの「人力開発院」を視察、2009年には日韓経済協会代表団の1人して当時の高市早苗経済産業副大臣と共に第17代李明博(イ・ミョンパク)大統領に接見、13年4月には日韓経済協会副団長としてチョン総理、ユン外相を表敬訪問し面会、15年5月には「第47回日韓経済人会議」に出席し、代表団として青瓦台(大統領府)で朴槿恵大統領と面会し、終了後に握手する様子も掲載している。好転した日韓関係の今後の不安要素としては、ユン政権の国内での支持率は低く、また大統領の任期は確実に5年で終了となることだろう。