トランプ政権の返り咲きと「台湾有事」との関係性
米大統領選2024でトランプ前大統領が勝利し、台湾への高額の武器売却を加速する可能性が高まっている。選挙期間中に「台湾の防衛費は不十分」と指摘しており、台湾は警戒を強めている。トランプ氏の勝利が伝えられた11月6日、台湾国防部(国防省)は、「台湾軍が買うのは防衛上必要な装備品だ。むりやり押しつけるのは受け入れられない」と訴えた。とにかく常にアメリカファーストを明確にしてきたトランプ氏だ。トランプ陣営は選挙期間中に「台湾は防衛費を域内総生産(GDP)比10%に引き上げるべきだ」と唱えたが、2025年度の台湾の防衛予算案はGDP比2.5%ほどの為、同国防部は5%への引き上げでも「不可能だ」としている。実は台湾が身構えるのは17〜21年のトランプ前政権時の「苦い記憶」があるためだ。当時のトランプ大統領は大型戦車「M1A2T」108両や、最新鋭の戦闘機「F16V」66機などの売却を次々と決めたが、台湾軍が希望する滑走路が破壊されても離着陸できる最新鋭の戦闘機「F35」の売却は認められなかった。大型戦車「M1A2T」を巡っても「台湾の狭い地形になじまず、売りつけられた」との不満があったからだ。トランプ前政権が17年からの4年間で売却したのは総額183億ドルとバイデン現政権の2倍強にのぼり、台湾の防衛を名目に、米共和党と近いとされる製造業(軍需産業)を潤わせる武器売却を優先させるのでは…との警戒感があるからだ。また中国に対しても敵視して25%もの関税を課したのはトランプ前政権だったので、中国製品に対する包囲網も強化されようとしている。上智大学の前嶋和弘教授によると、「もし中国が台湾を囲むとするならば、囲んだ段階でアメリカは数百%の関税をかけていくと(トランプ氏の発言)。米軍が出ていくわけではなく、他の手段で中国をあきらめさせる」との分析だ。これまで台湾与党の民主進歩党(民進党)政権はバイデン政権と連携をとりながら、圧倒的な軍事力を持つ中国を意識しながら機動性の高い武器で抑止する「非対称戦略」を磨いており、台湾の複雑な地形を生かしながら侵攻する中国軍と粘り強く戦う覚悟もある。バイデン政権は10月にも最新鋭の地対空ミサイルシステム「NASAMS(ネイサムス)」の売却を決めており、車両に乗せて移動可能で巡航ミサイルや無人機などを迎撃できると期待され、戦闘機F16や艦艇などに使う部品や維持のための技術支援も多かった。台湾の持久力を高める狙いがあったとみられる。台湾メディアの中国時報は11月7日付のコラムで「トランプ氏は商人の考え方で米国の利益を考えており、大事なときに中国と取引して台湾を犠牲にする懸念がある」と触れている。台湾では有事に米国が助けてくれないとする「疑米論」があり、台湾有事という言葉が一般化している現状では米台間での建設的な意思疎通は不可欠だ。しかしトランプ政権の人事は対中強硬派が人選されており、どのような展開になっていくか、年明けの新政権が正式にスタートするので注目していきたい。