「老舗企業」 が続く秘訣、「倒産企業」 から学ぶ

「老舗企業」 が続く秘訣 「倒産企業」 から学ぶ

大小にかかわらず企業経営に携わっている方であれば、「帝国データバンク」は耳慣れた存在であろう。先日、同社の情報統括部を著者とし、講談社から刊行された『なぜ倒産 運命の分かれ道』という新刊本が筆者に献本されてきた。筆者は『(日本企業を復活させる)稼ぐ経営』という著作をKADOKAWA(旧:角川書店)から刊行したことがあったし、もう10年近く前の話になるが、日刊工業新聞社が主催する「モノづくり日本会議」の100年経営の会で講演もしている。いずれも、講演参加者や関係者が、経営のあり方を見つめなおす機会になればと考えて引き受けた仕事である。そうした機会に、今後の企業の成長戦略を筆者なりに考え、地球規模でのマトリックス(基盤)の必要性をお伝えしてきた。現在の経済や政治を見るとき、どうしても日米関係や米中関係などの国際情勢を軸に考える傾向がある。その前提で「現在の我が国の政治トップがそうした国際情勢の激動に対応できる人物であろうか」と、ついつい思考が先行してしまう。長らく国民からの支持・期待が高かった(自民党内は別)石破茂氏が昨年、念願の首相の座に就いたが、早くも期待はずれの一面が出始めている。とはいえ、現状ではその後任として誰もが納得できるような適格者がはっきりせず、「勝ち馬に乗ろう」とする政界関係者は様子見の状態であろう。そこで、本題に入る。世界でもっとも古い会社が社寺建設を手がける金剛組(大阪府)であることはよく知られている。同社の創業は飛鳥時代の西暦578年だというから、まもなく1450年ということになる。同社ほどではないにせよ、日本には創業100年を超える老舗が数多くあり、私が取締役を務めた旭化成も2022年に創業100年を迎えた。しかし、その一方で毎年多くの企業が志半ばで破綻する。本書は、コロナウイルス蔓延の渦中の2021年後半から、2024年までの倒産の最新事例を紹介したものである。なかでも記憶に新しいのは、液晶テレビで一世を風靡した船井電機、日産に部品を提供していたマレリ、「森のたまご」ブランドで知られるイセ食品の大型倒産だろう。船井電機は韓国・中国企業とのシェア争いに敗れ、マレリは自動車部品業界激変に対応できず、外資系ファンド「KKR」の傘下で再建を目指したものの破綻、イセ食品は90歳を超えた創業者からの事業承継に失敗したことなどが原因になったという。中小企業の破綻も増えている。王、長嶋時代を彩った少年野球帽制作会社、富士通「らくらくホン」後継企業、行列のできるベーカリー、水族館運営会社、学食運営会社、補助金申請コンサル、高級紳士服製造の老舗など、帝国データバンクの調査員が「足で稼いだ」報告が並ぶ。収録された26のケースに目を通してみて、「なぜ倒産」に至ったのか、共通点を指摘するのは容易ではないと思った。「すべての幸せな家庭は似ているが、不幸な家庭はそれぞれに不幸である」と言われるように、倒産する企業にはそれぞれの「運命の分かれ道」があり、一様ではない。一方、50年、100年と続く企業は、企業文化を受け継ぐ人物をトップに据え、「ブレない部分」と「大胆に変えていく部分」を共存させているからこそ、時代が変わり、政治が変わり、環境が大きく変わっても生き残っている。それを再確認するためにも、本書を味読する意味がある。