経済難の北朝鮮に“暴発”の懸念

経済難の北朝鮮に“暴発”の懸念

経済制裁とコロナ禍、自然災害の三重苦で経済難が深刻化する中、2021年9月9日、北朝鮮は平壌の金日成広場で、建国73周年を祝う軍事パレードを実施した。しかし、式典では恒例となっているスーツでの金正恩総書記による演説はなかった。また今回、式典で登場したのは本人ではなく影武者だったとの説(『デイリーNKジャパン』の高英起編集長は否定)もあるようだ。金総書記は21年初めから重病説等も噂されていたが、報道されたパレードでの姿が37歳の実年齢よりも、若々しく感じられることが原因のようだ。影武者説が疑われることになったもう一つの理由には、最高指導者警護部隊である974部隊の傘下には、優れた整形術や化粧法の特殊偽装技術をもつ「代役研究所」の存在があげられる。現在、金氏の代役が10名から12名駐在しているとされている。また、本来は晴れ舞台のはずの9月13日のミサイル発射実験に参加していなかったことも疑わしい。個人的には、お腹が突き出ていた従来の金氏より、体形が細くなったことは別としても、顔が変わっている印象を受けた。特に額の髪の毛や生え際は別人のようにも見える。他方、同29日には最高人民会議で施政演説を行い、8月の米韓合同軍事演習に反発して遮断していた韓国との南北通信連絡線の再開を表明し、10月4日、2カ月ぶりに再開させていることの背景が気にかかる。朝鮮中央通信によれば、演説の中で、韓国の敵視政策撤回などの「先決しなければならない重大課題」を解決するため、韓国は積極的に努力しなければならないと主張したと伝えており、北朝鮮は韓国との対話姿勢を見せることで緊張を緩和し、経済成長と戦略兵器開発に集中する環境を維持しながら米韓連携を揺さぶる狙いとみられる。また、南北関係を収拾して、制裁緩和や人道支援を引き出したい思いもあったとされる。朝鮮人民軍に対する配給までも滞り、逆に軍部から備蓄米の供出を迫って、さらには豚や鶏のエサまで人民に支給されている状況もあり、(報道番組での平壌の風景とは別に)もはや取り繕いをする余裕もないのが実情のようだ。だから来年5月に任期満了で、もはや支持率も30%を下回る状況の文在寅韓国大統領をも頼って、米国を説得してもらいたいとの情報まで出始めた。米国情報機関関係者によれば、一部の軍部の暴走も確認されていることから、「金正恩はすでに軍の統帥権を失った」と考えられるとまで言われ、北朝鮮の“暴発”の動きも出始めている。そのような北朝鮮が、核やミサイルの開発・実験を強めていることは、日本にとっても深刻な状況と判断せざるを得ない。新型の巡航ミサイルの発射実験を9月中旬に実施したが、これは日本の大半が射程となる飛行距離1千500キロメートルの長距離だ。地表や海面を低高度で這うようにして飛ぶので、自衛隊のミサイル防衛では、波状的に攻撃されたら撃ち落とすことはできず、日本にとって緊急事態である。菅義偉前首相の後継となった岸田文雄政権では、閣僚の陣容を大幅に変えたが、一貫性が必要な外交・安全保障政策を担う茂木俊充外相と岸信夫防衛相は再任した点には注目すべきだ。以上のように、南北朝鮮問題の展開や北朝鮮の核・ミサイル問題の現状も考慮し、岸田首相は10月8日の所信表明演説の最後のところで、日朝国交正常化を目指し「金正恩氏とも直接向き合う」との決意を述べた。※本欄は月刊誌「リベラルタイム」2021年12月号に「匠の視点(第20回)」としても掲載。