淡々と「長期政権」を目指す岸田文雄首相

淡々と「長期政権」を目指す岸田文雄首相

G7サミット(主要先進7ヵ国首脳会議)が岸田(文雄)首相の地元広島県で2023519日~21日にかけて開催される。2110月に発足した岸田内閣は「聞く力」を押し出してスタートし、当初は最大68.9%(FNN調査)の高い支持率であったが、232月時点での支持率は23%(dサーベイ調査)と過去最低を記録し、浮上の兆しも窺えない。ただ、そのような状況下でも、岸田氏は淡々と数々の政治難題をこなしていると判断すべきかもしれない。反体制メディアや野党の足の引っ張りに屈することなく、例えば、統一教会を巡る救済法案を成立させ、防衛費増額に向けた財源確保法案も閣議決定したのを始め、最近の23年2月には、安倍晋三元首相の国葬弔辞原稿の作成担当もした荒井勝喜首相秘書官の失言にも直面したが、同秘書官を即時更迭した。「決められない首相」と形容されてきた岸田氏ではあったが、前述した表現の如く淡々とではあるが、政権運営の安定化に真摯に対処する姿勢を見せている。筆者は、岸田氏が首相になるかなり以前の古い話ではあるが、二度ほど会食(岸田氏を含めて計4人)をした経験がある。同席したのは、お誘い頂いた方の他に、二度ともに岸田氏が派閥会長を努める宏池会の前任会長で、数々の大臣経験もある古賀誠元自民党幹事長であった。その時の岸田氏は、上司の前での部下”の印象で、当時の人間性の一面を垣間見せていた。それがいまでは、国会答弁等や報道番組での姿は、自身の政治信条に基づいて、平然と国難にも向き合い、自信を深めた表現力と毅然とした顔つきに変わっている。232月には、菅義偉前首相が年明けから各方面で公然と岸田批判を開始したとの情報(東洋経済オンライン)がクローズアップされ、二階俊博元自民党幹事長と連携して、「岸田降ろし」でもするかの如き報道も出た。だが、首相が議長を務める広島サミットが成功裡に終えられれば、他派閥の関心事は、首相の持つ解散権に移る。24年に予定されていた衆議院総選挙が、23年秋に早まるかどうかが焦点になるだろう。衆議院は、「23年中には無理だろう」と古参首相経験者(小泉純一郎氏)が発言しているとの情報もあるが、年内解散が実施されれば、「決断できる首相」と見なされて政権浮揚する契機になるかもしれない。そして、国民多数が納得できる後継者不在の状況から、長期政権への道を歩むこともなきにしも非ずである。周囲には批判的な声もあった岸田氏の長男の秘書起用も、政権の長期化を視野に(心を許せる者を身近に置き)サポートさせたいとの思いがあったのかもしれない。歴代最長の外務大臣経験と実績で、231月に7日間という短期間にG7サミットに向け欧米歴訪し、(以前から面識があった)バイデン米大統領を始め、ヨーロッパ各国・カナダ首脳との対面も果たした。また、一部に批判もある「首相でありながら派閥会長を兼任する問題」についても、国際問題の視点で捉えるならば理解できる。国内最古の派閥といわれる「宏池会」はこれまで、ハト派の保守本流と呼ばれながらも、リベラル派かつ親中派と目されてきた。宏池会の方針から外れるような外交・防衛面での取り組みができるのも、首相としての日本の国是を優先できる岸田氏の立場があってこそだろう。これらの点にも注目しながら、今後の政権運営を見守りたい。※尚、本欄は月刊誌「リベラルタイム」2023年4月号「匠の視点」第36回としても掲載。