尹錫悦大統領によって改善に向かう「日韓関係」

尹錫悦大統領によって改善に向かう「日韓関係」

戦後の日韓関係は、常に歴史問題に由来する緊張に見舞われてきた。しかし、北朝鮮にすり寄って戦後最悪の関係に貶(おとし)めた前韓国大統領の文在寅(ムン・ジェイン)政権の幕は閉じられ、2022年5月に就任した尹錫悦(ユン・ソンニョル)大統領による対日融和政策のステージに入り1年が経過した。韓国には反日を声高に叫ぶ勢力が存在する中、2211月にASEAN(東南アジア諸国連合)関連首脳会議出席のために、カンボジアの首都プノンペンを訪問した岸田(文雄)首相と尹大統領は約3年ぶりとなる対面での日韓首脳会談を行った。さらに、233月には、尹大統領が来日して東京で会談が開かれた。会談では、地政学的に安全保障や経済の利益を共有する隣国同士である日韓が、核・弾道ミサイル開発を続ける北朝鮮や、台湾海峡等での軍事的威圧を強める中国に対し、連携して対応する方針を確認した。1112月に当時の李明博(イ・ミョンパク)大統領が来日したのを最後に、途絶えていたシャトル外交を12年ぶりに再開することでも合意した。尹氏の国内支持率は盤石ではなく、韓国世論の評価には厳しいものがあるが、同国の保守系有力紙『中央日報』が社説で「敏感な対日外交問題に対し大統領が国民の理解を求めようとする姿勢は望ましい」と評価した例もある。日韓関係の修復を訴える尹政権への返礼としての意味もあり、岸田首相は5月7、8日に首相就任後初めて韓国を訪問し、ソウル大統領府で首脳会談を行った。日本の首相の訪韓は、18年2月に平昌オリンピックの開会式に出席した安倍晋三首相以来だ。岸田氏は日本を出発する際、「日韓関係の加速や激変する国際情勢について腹を割った意見交換をしたい」と語ったが、8日の帰国に先立つ記者団の取材に対し、「尹大統領の公邸で、個人的なことも含めて、お互いの信頼関係を深める意味で有意義な会話が出来た」「力を合わせて新しい時代を切り開いていきたい」と強調。とりわけ、岸田氏の(元徴用工問題に関する)「心が痛む思い」との踏み込んだ発言は、反対派にも受け入れられた印象もあった。また、シャトル外交の再開を踏まえ、5月11日には麻生太郎自民党副総裁も訪韓。大統領公邸で尹氏と夕食を共にして、関係改善の動きを軌道に乗せたようだ。尹氏の日韓関係修復に向けた親日的発言も注目されていた。例えば、424日の米『ワシントンポスト』のインタビューで尹氏は「100年前のことのために『ひざまずき許しを請え』という考えには同意できない」と回答。また、同月開催の閣議で「我々の社会には『反日を叫び政治的な利益を得ようとする勢力』が存在する」「日本はすでに過去数十回にわたって、歴史問題について反省と謝罪を表明している」と発言した。米韓同盟70周年という記念の年に日韓関係の改善を望む「アメリカへの配慮」もあり、尹氏はアメリカを国賓訪問して427日に米議会で演説した。東アジアを取り巻く安全保障環境は緊迫度を増しており、その演説でも「韓米日の安全保障協力もさらに加速しなければならない」と連携強化を訴えた。日本と韓国は自由と民主主義、市場経済といった基本的価値を共有する隣国同士であることに、筆者は改めて思いを馳せた次第だ。岸田氏は519日開幕の広島サミットに尹大統領を招待し、シャトル外交の弾みとした。※本欄は月刊誌「リベラルタイム」2023年7月号「匠の視点」第39回としても掲載。